今日の本はミステリー=推理小説です。
いくつかの短編がつながって長編になるという連作短編集。
長い文章は苦手という方でも読みやすいと思います。
今日のおすすめは「製造迷夢(せいぞうめいむ)」
ジャンルとしてはミステリー=推理小説なんだけど、普通のミステリーとはちょっと違うんだ。
この本には5つの短編が書かれている。
短編だから、一つ一つの話は長くない。
短いお話の中で、不思議な謎解きもしっかりしてくれる。
だけど、この本に探偵は出てこない。
事件を解決するのは、顔に火傷の跡がのこる男性刑事と物に残った残留思念を読み取ることができる女性。
ね?普通のミステリーとはちょっと違うでしょ?
この本はミステリーとしての謎解きの驚きと面白さ、そして不思議な能力を持つ女性と男性刑事さんとの絆が深まる姿を追いかける人間ドラマの二つが読める本なんだよ。
製造迷夢のご紹介
製造迷夢のデータ
著者の若竹七海さんは、1991年にミステリー小説「ぼくのミステリな日常」でデビューしたんだ。
この「ぼくのミステリな日常」って本も面白いから今度紹介したいと思うけど、今日は「製造迷夢」の方ね。
この「製造迷夢」は、5つの短編でできている。
短編はそれぞれ独立した話なので、一つだけ読んでも面白い。
だけど、できたら最初から順番に読んでほしい。
第一話の「天国の花の香り」というお話で、主人公の二人である男性の刑事さんとリーディング能力を持つ女性の出会いがあるのね。
そこから、第二話・第三話とそれぞれ違う謎を解決しながらも、刑事さんと女性の関係が変化していくっていう、連作になっているんだ。
なので主人公の二人を追いかける意味では、一話から続けて読んでいく方がおすすめだよ。
「製造迷夢」の世界
やっぱりこの本は謎を解く人の一人として、残留思念を読むことができる女性がいるっていうのが最大の特徴だと思う。
残留思念っていうのは物に残った人の強い思いのこと。
その女性は、残留思念が残った物を触ることでそこに残っている人の思いを読むんだ。
これをリーディング能力と言っているんだけど、これって普通の人にはできない事だよね。
もちろん、もう一人の謎を解く人の男性刑事さんも、最初はこの女性のことを信じない。
超能力と言われているリーディング能力を、実際に持っているなんて信じられないんだよね。
だけど、彼女の能力のおかげで謎を解くことができるようになるにつれ、だんだんと女性の事を信じるようになっていくんだ。
女性の方も刑事さんと一緒の時間を過ごすことで、刑事さんのことを信じていく。
ちなみに、彼らが解くことになる謎っていうのはとても様々。
例えば、万引きで捕まった主婦が12歳の女の子に噛みつかれる。
噛みついた女の子が言う。「この人が前世で私にしたことの復讐をしたんだ」
だけど、この主婦と女の子はこれまで一度も会ったことはない…とか。
例えば、クリスマスシーズンでも仕事中の刑事さんのところに若い女性が訪ねてくる。
彼女は洋服に電飾をギラギラ光らせて、まるで自分がクリスマスツリーのような格好で現れるんだけどね。
警察に捕まっている友達はだれかにそそのかされて罪を犯したんじゃないか、と言う。
そのそそのかした人っていうのが警察官だと思うと言われた刑事さんは、警察への疑念を晴らすべく調べだす…とか。
他にも、なんでそんなことになったんだろうっていう謎があるんだよね。
これらの謎を、男性刑事さんとリーディング能力を持つ女性がどうやって謎を解いていくのか。
そもそも、謎を解くことができるのか?
最後まで読むと、ああーって納得のため息が出てしまう本だよ。
【製造迷夢】を読んで思う事
謎を解くことは人を知ること
リーディング能力を持つ女性が出てくるからといって、この本の謎があっという間に解決されるということはない。
確かにその能力が謎を解くヒントをつかんでくれるんだけど、それはあくまでヒント。
謎を解くためには人が人と会って、絡まってしまった謎の素をほどいていかないといけない。
人と違う能力があるからといって、何もかもがうまくいくわけじゃないんだよね。
だから、そういった特別な力を持っていない刑事さんと協力しないといけないんだよ。
そしてね、謎を解くのが人ならば謎を作るのも人間だということ。
謎を作る人っていうのは、とにかく強い思いを持っているのかもしれないね。
人の思いが増幅し強大な謎になって、周囲を巻き込んでいく。
自分でも持てあましてしまうくらいの思いがあふれて、善悪合わせて引き寄せて巻き込んでぐちゃぐちゃにして、わけがわからなくなって残るのが謎なのかもしれない。
そんな人たちの思いを読むって、どんな気持ちだろうね。
この本はミステリーで謎解きの本だけれど、謎多き力を持たされてしまった女性の話でもあると思う。
彼女は自分のリーディング能力を受け入れて暮らしている。自分の能力についての謎を解くことはできないけれど、その力を持ち続けることの辛さを、もう一人の主人公の男性刑事さんにはわかってほしいと思うんだよね。
わかってもらえないことの辛さは、謎を解いてもらえない辛さにも通じる。
謎を解くことは、その謎にかかわる人を知ることに通じると思うんだ。
だから、謎を謎のままにしておけないんだよね。
だから、謎を解くことは楽しいし、怖いし、面白いんだね。
ちょっと不思議なミステリー「製造迷夢」
この本はミステリーとして、とってもおすすめ。
単純に謎解きを楽しむことができるし、謎が解かれた時の驚きと納得感もしっかり味わえる。
そしてね、男性刑事さんとリーディング能力を持つ女性の二人の主人公が、いかにして絆を深めていくのかを読むこともできる。
ミステリーと人間ドラマが一緒になった本だね。
短編だし、時間がある時に1話ずつ読むってこともできるよ。
ゆっくり、じっくり、謎解きの面白さと二人の主人公の気持ちの動きを楽しんでみてね。
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